死は平等にある以上、相続も必ず発生します。
相続に関する決まりは民法に規定されています。例えば、「誰が相続人になるの?」「どれくらい財産がもらえるの?」「相続を放棄したいときはどうするの?」「遺言の効力とは?」などすべて民法で規定されているのです。
現在の民法の規定(特に相続に関する規定を「相続法」といいます)は昭和55年(1980年)に定められたルールです。もうかれこれ40年にわたって相続を司ってきました。
しかし、40年前と今では社会構造や経済状況、ルール、そして直面する「問題」と、大きく異なることは容易に想像できます。現在の社会事情に即した法律であるために、相続法は大きな改正がされることとなりました。
今回の相続法の改正の主な内容は次の通りです。
相続法の改正の主な内容
・配偶者居住権の創設
・自筆証書遺言に添付する財産目録の作成がパソコンでも可能に
・法務局で自筆による遺言書が保管可能に
・被相続人の介護や看病で貢献した親族は金銭請求が可能に
などです。
今回はその中で大きな改正点の一つでもある配偶者居住権について説明します。
配偶者居住権は、配偶者が相続開始時に被相続人が所有する建物に住んでいた時に、一生涯、あるいは、一定の期間、その建物を無償で使用することができる権利です。
ご主人様を亡くされた奥様。ご主人との思い出が詰まった家にずっと住みたいと思う奥様の気持ちを大切に考えたいですね。
しかし、現在の法では、そんな奥様のお気持ちを汲むことができないケースも多々あるのです。
遺産のうち大半を占めるのが不動産であることが我が国の相続の大きな特徴であるといえます。
例えば、ご主人が亡くなり、子どもがお一人いらっしゃる奥様について考えてみます。
相続人は、奥様とお子様です。
財産はご自宅(2000万円)と預貯金1000万円です。
相続の割合は、奥様とお子様が各2分の1ずつですので、法律にのっとった分け方をすると、それぞれ1500万円ずつ相続することになります。
奥様はご主人と暮らした思い入れのある家に住み続けたいと主張しました。息子さんは売ってしまって、お金に換えて分けてしまおうと主張しました。
もちろん、財産の分け方について協議が整えば、2分の1ずつという法定相続分にこだわらずに遺産をわけることもできます。
ただ、それぞれが相続分を2分の1ずつの相続分を主張する場合、奥様が家を取得するなら預貯金はもらえないばかりか、
2000万円(ご自宅の価値)-1500万円(相続分の割合)=500万円
この差額の500万円をお子様に支払わなければならなくなるのです。
通帳の名義がご主人様であったら、ご夫婦二人でこつこつと貯めた預貯金1000万円であっても上記の分け方では奥様は預貯金を相続することができなくなってしまうのです。
奥様は今後の生活について非常に不安になるとおもいませんか?
そういった不安をなくすように、配偶者に限って、建物についての権利を「負担付きの所有権」と「配偶者居住権」にわけたのです。負担付きの所有権とは「奥様(あるいはご主人様)に住まわせるという制限付きで建物を所有する」ということです。
反対に配偶者は建物の所有権はもらえなくても住む場所、住む権利があれば安心ですよね。
配偶者居住権は自宅に住み続けることができる権利であるので、所有権とは異なります。つまり、自分で住み続けることはできますが、人に貸したり、売却したりすることはできません。
そして、居住権とすることで通常の相続で所有権を取得するよりも大きく建物の評価を下げることができるのです。
単純化して説明しますと、上記の例でのご自宅の価値は2000万円ですが、居住権は完全な所有権ではないので、価値が下がって1000万円となったとしましょう。
そうすると、奥様の相続分は1500万円でしたので、ご自宅の居住権の1000万円とともに預貯金から残りの500万円を取得することができるようになるのです。
そうすると、奥様は住む家に加えて生きていくための生活資金も一部相続することができるので安心ですよね。
配偶者居住権については2020年4月1日に改正されます。
順次ルールは変更されていきますので、ご注意ください。
また、上記の例は非常に単純化したモデルケースですので、実際の評価や分割方法については各種専門家にご相談ください。